超伝導体のジョセフソン接合ネットワークの量子磁束相


 銅酸化物超伝導体においてクーパー対の異方性に着目した新しい磁束相が、理論研究グループによって提案されている。サブミクロンサイズの銅酸化物超伝導体微粒子を焼結させた超伝導セラミクスではグレイン(微粒子)間のジョセフソン接合においてd波超伝導体の波動関数の異方性により位相差が0の“0接合”とπの“π接合”が生じる。グレイン間の接合に着目すると、0接合とπ接合がランダムにネットワークを形成するジョセフソン接合のネットワーク系とみなすことができ、新奇な磁性相が生じる。このようなネットワーク系において、接合を含む最小閉ループではπ接合が偶数個含まれる場合(0リング)は零磁場において超伝導電流は流れないが、奇数この場合(πリング)は位相差を打ち消すように自発的超伝導ループ電流が誘起され量子磁束が生じる。ジョセフソン接合の位相差のランダムネスとそれに誘起される自発電流による磁束量子間のフラストレーションにより、従来の磁束相とは異なる新たな磁束グラス相(カイラルグラス)や常磁性マイスナー効果が出現すると考えられている。この新奇なグラス相や異常な磁気特性を実験的に追求し、高温超伝導体の物質系において新たな電気的・磁気的な機能性の獲得をめざす。YBa2Cu4O8およびYBa2Cu3O7セラミクスを用いた実験によりカイラルグラス転移および常磁性マイスナー効果を観測している。

                    
超伝導セラミクスにおけるジョセフソン接合の模式図       YBa2Cu4O8結晶構造図